2010年4月アーカイブ

今回から数回に分けて温泉医学・温泉療養についてご紹介したいと思います.
まずは温泉医学のお話の前に,補完代替医療の説明をしましょう.

我が国では古くより病気の療養目的で温泉が利用されてきました.
当時はリウマチや肺結核などの良い治療法もなく,温泉地に長期間滞在し,温泉に浸かって病気を療養していました.
このような療養目的で温泉地に長期滞在することを「湯治(TOUJI)」といいます.
私はこのトウジという響きが結構好きです.
なんだが癒しているような雰囲気で良いですよね.

近年になり医学は急激に進歩し,今まで難病とされてきた病気もだんだんと原因が解明され,それに伴い治療法も劇的に進化しました.
医療の分野では,治療のエビデンスが求められるようになり,EBM(Evidence Based Medicine;科学的根拠に基づいた医療行為)が重要視されています.
温泉療法などの伝統的に行われてきた民間療法は,最新医学のようなエビデンスは乏しいかもしれませんが,代替療法や補完医療として近年注目されています.
また,最新医療と補完代替医療を両方とも組み合わせて全人的に治療を行うことを統合医療とよんだりします.

「医学」という言葉と,「医療」という言葉は同じようで,全く違う意味合いの言葉ではないかと勝手に解釈しています.
私のイメージする「医学」とは,自然科学のことであり学問・サイエンスなのであります.
学問学術的な世界で重要視されることは科学的真理性です.
エビデンスがやっぱり大事なのであります.
「医学」の急激な進歩により私たちは多大な恩恵を受けています.
たった100年前までは主な死因は結核や肺炎などの急性感染症でしたが,治療薬の開発などにより疾病構造は激変し,現代の主な死因は悪性腫瘍(癌),心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病です.平均寿命はどんどん更新され,長寿社会を実現しました.
しかしこの「先端医学」をもってしても現代社会では万能ではないのです.
生命現象は分からないことだらけであり,最新の医学知識を駆使しても分からないことが多くあります.

大きな病院で全身精密検査を行っても,病気の原因が解明出来ないことがあります.
原因が分からないのであれば,科学的根拠に基づいた適切な対応は難しいかもしれません.
また,病気の原因が分かったとしても,すべての人が同じ治療により同じ効果が得られるとは限りません.
人間には多様性があり,また医学には限界があるからです.

それでも私たち医療者は,患者さんの病気をなんとか治療しなくてはなりません.
私のイメージする「医療」とは,学問ではなくて,患者さんを中心とした患者さんのための医療行為全般を指しています.
最新の医学的知識(サイエンス)を基礎にして,エビデンスのある治療を行うことが最も合理的であり,第1選択です.
しかし,それだけでは良い結果が得られない場合も多々あります.このような場合に,患者さんの生活の質を高めるためには補完代替医療が有益であることが少なくありません.

補完療法には温泉療法のほかにも,漢方治療,鍼灸などが代表的で伝統的に昔から親しまれています.近年では芳香療法(アロマセラピー),アーユルヴェーダ,ホメオパシー,音楽療法,アニマルセラピーなど多様な補完治療が行われています.
これらのなかにはエビデンスのあるものもあり,近代医療を補完する存在として期待されています.

患者さんによっては補完医療が非常に有効なケースもあります.
でもそれで満足してしまって,一般の診療を中断してはいけません.
補完的治療は継続しながらも,バックグランドに大きな疾病が隠れていないのかを,常に科学的な眼で観察してゆく必要があります.
補完医療は,近代医療の補助的な存在であることを忘れてはなりません.

今回は,補完医療としての温泉医療の位置づけについてお話させていただきました.
次回は温泉療法のもう少し具体的な内容について説明します.

早いものでもう4月ですね.
皆様,新年度でお忙しいと思います.
当院も平成22年度の診療報酬改定でバタバタしています.
さて今日の話題は巷でも話題の「明細書発行体制等加算」についてです.

皆様は病院でかかる医療費について,その価格はどのように決められ,どのように決定されるのかご存知でしょうか?
医療費は診療報酬といって,中央社会保険医療協議会というところで決定される公定価格です.
2年に1回改訂されて,今年の4月から新しい診療報酬体制となりました.
診療報酬は公定価格ですので,同じ規模の医療機関で同じ治療を受ける限りは,全国どこでも同じ診療報酬です.
良く皆さんから「あそこの病院は安い」とか「高い」などの声を聞きますが,それは正確には誤りです.
診療の内容が微妙に違うか,例え全く同じ治療でも病院の規模が異なると,診療報酬が異なってきます.

それにしても,診療報酬の計算方法は複雑です.
長年医療に携わってきても,いまだに理解に苦しむことがとても多いです.
なんでこの治療がこの点数(診療報酬は点数で表します.1点=10円で3割負担なら患者さんの負担額は1点あたり3円です)なのか?
この「〜加算18点」とか「〜管理料225点」ってなんなのか?

今年も全国的に話題となっている改訂がありました.
明細書発行体制等加算」と「地域医療貢献加算」です.
後者については問題がありすぎるのでまたの機会に考えるとして,今日は「明細書発行体制等加算(1点)」について考えましょう.

これまで皆さんは病院に受診して,治療費を支払った際に領収書を貰っていたと思います.
その領収書の内容は大雑把で,何にいくらかかったのかが解りませんでした.
この明細をハッキリさせるために,今年の4月より一部の対応不可能な医療機関を除いて,領収書とは別に明細書の発行が義務付けられました.
当院でも4月1日より領収書と明細書の発行を行っています.

国民皆保険が達成されたのが昭和36年.(結構最近なのですねぇ)
我が国では社会保障費増大による国家財政悪化(医療費亡国論)から,積極的に医療費削減を行ってきました.
改訂に次ぐ改訂で,現在の診療報酬体系は大変に複雑怪奇なものとなっています.
一筋縄で理解出来るものではなく,全てを理解で来ている人間なんて(診療報酬を決めている側でも)存在しないんじゃないかって思う事があります.

そこで明細書の発行義務化です.
これを発行出来る体制の医療機関は再診料に1点(10円)加算されます.
皆さんも受診した際に明細書をご覧になってください.
はっきりいって理解困難です.
説明せよと言われても,簡単に理解して頂けるように,簡素に説明出来る自信がありません.
それだけ複雑なのです.

国民皆保険は,全国民が平等に均質な医療を受ける事の出来る良い制度です.
アメリカ合衆国だって,ずっと以前から達成出来ず,オバマさんでやっと出来そうになっている制度です.
日本はもう昭和36年からやっている訳です.
なんとかこの優れた制度を壊さないで継続させたいものですが,医療費削減が「医療崩壊」の一因ともなっていると考えられ,存続が危ぶまれています.

当院では場所柄か,米国在住邦人の方が一時帰国の際に受診し,全額自費診療(10割負担)でも良いので長期処方を希望される方が大勢見えます.
アメリカで医療機関に受診するより,全額自費でも良いので日本で診療してもらった方が,比較にならないほど安いんだそうです.
医学的な観点から,長期処方は好ましくないと伝えても,アメリカで医療難民になっているよりはずっとマシだと言われると返答に困ります.

いろいろな理由から明細書発行には反対の意見も多く聞こえますが,私は皆さんが日本の医療事情を考え直す良い機会ではないかと考えます.
日本では患者さんの窓口負担割合が多いので医療費は高いと感じる方が多いと思いますが,世界的に見れば低医療費国家なのです.

不謹慎かもしれませんが,最後に医療のお値段について具体例を.
心臓マッサージってご存知でしょうか?テレビドラマでもよく見る,心肺蘇生術のひとつで,心臓が動かない患者さんの胸郭をリズミカルに圧迫して,心臓を動かすアレです.やらないと患者さんは死んでしまいます.
心臓マッサージ(非開胸式)を60分間行うと290点です.
つまり医療費は2900円(3割負担なら負担金870円)です.
駅前のマッサージ屋さんで肩のマッサージしたって60分もやったら6000円はしますよね.
これで良いんですかね?
ご気分を害された方には,申し訳ありませんでした.
医療は聖職なのだから,そんなことは人として聖職者として無償で行うものと考えがちです.
医療に値段を付ける事は,とても残酷な事だと思いますが,そろそろみんなで真剣に考えるときが来ていると思いますよ.

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